Tuesday, December 20, 2011

【Hong Kong】アバクロ進出に屈しないブランド「上海灘」の秘策

大企業とラグジュアリーブランドショップが集まる香港の中心地、中環(セントラル)。この地を代表するファッションブランド、上海灘(シャンハイタン)の本店が、香港の一等地進出を狙うアバクロンビー&フィッチとの高騰する賃貸料合戦に敗れ、2011年10月23日、17年間の歴史を閉じた。アバクロ

上海灘の本店が入居していた、セントラルの「ペダービル」。現在「アバクロンビー&フィッチ」の旗艦店として改装中 アバクロメンズ

来年春にセントラルで新本店をオープンするまでの間、香港での最重要立地でのブランド・プレゼンスを維持するべく、同ブランドは新コレクションと連動する「セントラルの遊牧民」と名乗ったユニークなモンゴル風仮店舗を11月にオープンさせた。

埠頭の屋上に人工芝を敷き詰めた仮店舗「ノマッド・オブ・セントラル」

高層ビルの林立するセントラルの中心部からは若干離れている。タクシーの捉まりにくい夕刻時には、有名ホテルやモールからの無料送迎バスを出すなどの工夫も
香港の中心に忽然と現れたモンゴル式テント

オフィスビルでは一流外資系金融が複数階を陣取り、ショッピングモールには最高級の国際ブランドが軒を並べる香港島・中環(セントラル)。なかでも最大規模の商業施設「IFCモール」から歩道橋を渡ると風景は一変、九龍半島側に渡るスターフェリーや、離島へのローカルフェリーの発着所がずらりと並ぶ。その4番埠頭の屋上が、上海灘の新店舗「ノマッド・オブ・セントラル(中環の遊牧民)」だ。

高層ビルの林立するセントラルの中心部からは若干離れている。タクシーの捉まりにくい夕刻時には、有名ホテルやモールからの無料送迎バスを出すなどの工夫も

庶民的だったフェリー埠頭は、上海灘に合わせて一部模様替え。残念ながらエレベーターはなし
埠頭脇に設置された入り口を通って階段を昇る間に、全世界の上海灘の店舗で使われているフレグランス「ジンジャーリリー」の香りが漂ってくるため、上海灘に来たという実感が湧く。屋上には、7つの巨大なモンゴル遊牧民のテント式住居「ゲル」が並んでいる。 アバクロ 通販

「これらのテントは、全てモンゴルの職人に依頼して作った本格的なゲルです。ただし、香港での設置環境に合わせて、骨組みに鉄筋を入れて強度を高めたり、実際のゲルにはない裏窓を作ったりする工夫を施しました」と説明してくれたのは、上海灘国際マーケティング&PRマネージャーのクラウディア・チョイさん。設置予定の期間である11月から年末にかけては台風シーズンではないものの、香港の台風警報・レベル3(中型の台風)までは耐えられる強度を確保したという。

防水加工が施されたゲルの外布には、丹念な刺繍が施されている。本来モンゴルでは作らない裏窓も、全体の雰囲気に合うようにデザインを工夫してある

スタッフの背中にも「セントラルの遊牧民」のロゴが

大胆な刺繍やファー使いが見事なメンズジャケット
各ゲルは、紳士服、婦人服、ホームウェア、オーダーメイドなどに分かれており、裏窓から差し込む光と柔らかい照明が落ち着いた雰囲気を醸し出している アバクロレディース 。そして展示の中心は、洗練されたデザインに、モンゴル遊牧民の素朴さと野性味をうまくブレンドした2011年秋冬の「ノマッド・コレクション」。

シンプルながら頑丈に作られたゲル内部

ノマッド・コレクションのローブや小物など

ペダービルで大きなスペースを占めていたオーダーメイドのコーナーも専用のゲル内に完成

結婚式やパーティーなどの衣装の注文が絶えない

さようなら、ペダービル
次々と海外ブランドの大型店がオープンするセントラルのペダービル周辺。近隣では香港初の「ギャップ」旗艦店もオープンしたばかり

優雅な外観が近代的なビルに囲まれて引き立つ歴史的建築「ペダービル」


次々と海外ブランドの大型店がオープンするセントラルのペダービル周辺。近隣では香港初の「ギャップ」旗艦店もオープンしたばかり


上海灘は1994年の創業時から、東西の文化が融合した1930年代の国際都市・上海をイメージしたコレクションで、特に西洋人観光客に圧倒的な人気を博してきた。このノマッド・コレクションは、今回の経緯に合わせて準備されたのだろうか。

「いいえ、ノマッド・コレクション自体は、1年前から計画されていました」とクラウディアさん。「私たちが旧本店であるペダービルの店舗を失うことが判明したのは、今年の3月になってからなのです」。

セントラルに立地し、10月までの17年間にわたって上海灘の本店が入居していた「ペダービル」。第二種保存建築に指定されている風格ある外観は、カラフルで優雅な製品がゆったりと並んだ店舗の雰囲気と、完璧にマッチしていた。実は、栄枯盛衰の激しい香港の一等地で17年間の歴史というのは驚くべき長さなのだ。九龍地区や空港内、ショッピングモール内など他に6店を香港で、そして40店以上を海外に抱える上海灘だが、ペダービルの本店は、初めて世界的に成功した香港ブランドの象徴的店舗として、地元の人々の心の中に深く刻まれていた。

しかし、そんな地元企業の立場を、ビルオーナーの営利の追求から守る手立ては何もなかった。欧米の最高級ブランドの店舗が勢ぞろいするペダービル周辺は、中国本土を始めとするアジア全土からここを訪れる上客に、自社ブランドを認知させる絶好のロケーションとなりつつある。以前の2.5倍にあたる月700万香港ドルアバクロンビー (約7000万円)の賃貸料を支払うことで、アバクロンビー&フィッチがペダービル店舗を上海灘から奪い、ペダービルに香港初の旗艦店を現在準備中である。同じペダービルの2階に25年にわたって店舗を構えていた老舗レストランのチャイナ・ティー・クラブは、移転することなく完全閉店を決めている。愛着ある老舗や地元ブランドの相次ぐ撤退は、自らも家賃の高騰にあえぐ地元民に衝撃を与えた。

「私たちにとっても、まさに青天の霹靂でした」と話すクラウディアさん。「まだ詳しい立地は明かせませんが、来年の半ばには新しく、以前よりも大きい旗艦店をペダービルの近くにオープンする予定でいます。それまでの間、どうするのか。ペダービルを失うことは大変なショックでしたが、いつまでも落ち込んでいる場合ではない。セントラルでのプレゼンスを維持するためのアイデアを絞ろうと、すぐに気持ちを入れ替えたのです。それで、『そうだ、私たちこそ遊牧民じゃないか』と」。

アイデアの実現を容易にしたモンゴルとの絆

当初から秋冬に予定されていた「ノマッド・コレクション」にヒントを得て、ブランド自体が遊牧民となるアイデアがすぐに実現されることになった。

「実は、上海灘はもともとモンゴルとの縁が深く、2006年からモンゴルの伝統競技であるモンゴリアン・ポロの大会スポンサーを務めていました。 アバクロ 店舗土地の少ない香港の中環で仮店舗といえばショッピングモール内ぐらいしか通常は考えられません。ペダービルの6階にも約600m2の仮店舗を来年2月まで設置してはいますが(旧本店の売り場面積は約2000m2)、せっかくなら本店の移転にインパクトを与えてイベント性も発揮したいし、ペダービルだけが上海灘ではないところを伝えたいではありませんか。このフェリー埠頭はパブリックスペースであり、以前からカルティエやロエベの発表会など、高級ブランドの1日限りのイベントには使用されていました。それを取り急ぎ2カ月間にわたり借り上げることにしたのです」(クラウディア氏)。

モンゴルで製作されたゲルは、さすが遊牧民のテントだけあって、非常に素早く設置できる。他のイベントが同地で終了した後、わずか5日間で7つのゲルが組み立てられた。ビクトリア湾の夜景を絶好の位置で眺められる突端のゲルは60人が着席できるパーティー会場になっており、企業のパーティーなどへのレンタルも行っている。もちろん、使用される食器・リネン類はすべて上海灘ブランドのもの。

自由な発想で逆境をはねかえすユーモア感覚、したたかさ、前向きさが、優雅なデザインに秘められた奔放さと力強さを魅力とする、ブランドのアイデンティティーとぴったり一致した。生き馬の目を抜く香港でトップを走り続ける上海灘は、「本店を失う」という大ピンチを、生命力をアピールする大チャンスに変えてしまったのだ。


モンゴリアン・ポロにちなんだ木馬も展示されている


願い事をリボンに書いて飾るモンゴルの風習を再現


ビクトリア湾に面した大きな窓を持つ最大のゲルはパーティー会場としてレンタル可能

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